僕にキが訪れる
あぁ、目がかすむ。


耳が、遠くなっていく。


急速に、人としての感覚が、消えていくのが、わかる。

けれど、口だけは止めない。

最後の言葉を紡がないまま、終わることだけは、できない。


「だから、ずっと、言いそびれていた、ことを……言わないと、って。
あの日、言いたかった、ことを」


彼女の姿が、もうぼんやりとしか見えない。

今、キミはどんな顔をして聞いているのだろうか。

必死に目を凝らすが、もう輪郭くらいしか見えない。
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