【短編】SAKURA*MAGIC
何か言わなきゃって思うのに、今になって改めて自覚させられた感情に困惑してしまって、何も言葉が出てこない。
「カ、ズ……?」
いつの間にか、突っ立ったままの俺のスグ傍に希咲がいて、恐る恐る…といった様子で声を掛けられた。
俺を不安そうに見上げて首を傾げるその仕種も、無意識のうちに縋るようにギュッと俺のシャツの袖口を握っているのも、……心臓に悪いんだって。
今までなら何てことなかったそれらに、ドキドキしていることに俺自身ビックリだ。
「希咲も、俺を嵌めたの?」
「…ッ、ごめん…なさい……」
「まぁ、いいけどね。
希咲、今夜……あたたかい格好して待ってて?」
相変わらず、わかりやすいくらいにシュン…として落ち込んでいる希咲に向けた言葉は、……俺の覚悟の表れで。
上目遣いで俺を見上げた希咲がコクンと頷くのを見てドキッとしながらも、平静を装って頭を軽く撫でると、俺は大和に会うこともなく萩原家を出た。