60代の少女
「―――・・・危ねぇっ!」
考えている余裕もなく、元博は彼女の元へ駆けた。
その「もし」が、現実のものになってしまったからである。
彼女の腕を引くと同時、元博の鼓膜を、甲高いブレーキ音が刺した。
少女の体温を自分の腕の中に引き寄せると、トラックを避けるようにして、自分の体を放り投げる。
トラックの去る音を聞いたとき、元博はアトリエ前の花壇の上に、少女と共に転がっていた。
不意に、師の間の抜けた声が天から降ってきた。
「・・・いちゃつくには、ちょっと早い時間じゃねぇか、元博」
「・・・さっきの音と、この状況見て、よくそんなことが言えますね・・・」
元博は少々痛む頭を抑えて起き上がった。腕の中に、少女の姿を見つけて、少し安心する。
「大丈夫か?」
「・・・だ・・・大丈夫・・・ありがとう・・・」
少女―――田崎いちは、今にも消え入りそうな声で答えた。
「この道は、結構車通るから、気をつけたほうがいい」
「うん・・・少しぼーっとしてて・・・。本当、ごめんなさい」
少し口調を厳しくした元博の言葉に、いちはばつが悪そうに笑った。
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