60代の少女
その後は、何を話したのか、正直あまり覚えていない。
ただ頭の中がやたら事務的に動き出して、通夜や葬儀といった儀礼的なものの日付だけはしっかりと記憶していた。
殺したって、死なないような人だったのに。
喪服に着替えて、葬儀が行われるセレモニーホールの前までは行ったものの、その先に入れなかった。
横柄で、自分勝手で、正論が全く通じなかった師の死に顔なんて、想像できなかった。
想像できないものを、現実という形で突きつけられるのが嫌だった。
結局葬儀にも参列せず、お焼香もせず、気付けば元博は、四五六のアトリエに向かっていた。
< 107 / 113 >

この作品をシェア

pagetop