60代の少女
何故か持っていた鍵を錠前に差し込み、扉を押し開ける。普段から重かった扉が、いつも以上に重く感じた。
この蔵と四五六の住居は繋がっていて、いつも四五六は住居からこの蔵に入る。実質、鍵を使用するのは、外から来る弟子達だけだった。
四五六は筆を持とうが持つまいが、日のほとんどをこのアトリエで過ごしており、元博が鍵を開けたとき、そこに四五六の姿がない日はなかった。必ず、入り口に背を向けた中央の椅子に腰掛けて、元博が入ってきたことを知ると、挨拶もせず開口一番「掃除だ、掃除」と言うような人だった。

今日は初めて、そんな師の姿がない。
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