60代の少女
代わりに中央の椅子の向こうにあるのは、イーゼルに立てかけたままの真っ白なキャンバスだった。
傍らには、未だに医療関係の本が積まれている。
3年、通い続けたこの空間が、まるで別世界のように、広く感じた。
元博は、いつも師が座っていた場所へ腰掛けた。50号の大きなキャンバスと向き合い、山になった一番上の本を手に取る。
読んでいる途中だったのだろう。本にはしっかりと、しおりが挟まれていた。
しおりの挟まれたページを開くと「生きることと死ぬこと」という題字。

一番、いいトコで読むのを止めるのか。
師匠らしいといえば、師匠らしいか―――
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