60代の少女
元博は彼女を起こしてやり、土まみれになった自分の服を掃う。
「あの・・・服が・・・」
「ああ、気にすんな気にすんな。アトリエに替えの服あるから、それでも着て帰りゃいいだろ」
「・・・なんで師匠が言うんですか」
一瞬とはいえ、弟子が命の危機に晒されていたというのに、この態度。色んな意味で、自分の師は大物だと思う。
「それよりも―――いちちゃん、だろ?」
四五六の突飛ない言葉に、いちは目を瞬いた。
「そうですけど・・・」
「やっぱり・・・俺だ。四五六。笹本四五六」
「―――・・・え?四五六さん?」
少女は何か懐かしいものでも思い出したように、目を見開いた。
「ああ、やっぱ、変わってねぇな・・・」
そう言った師の表情が少し曇っていたのは、見間違いだろうか。
いちは苦そうに笑っている。
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