60代の少女
「―――・・・いち・・・か」
「・・・ごめん・・・扉・・・開いてたから・・・」
小さな足跡が近づいてくる。元博は懸命に立ち上がろうとしたが、足が言うことをきいてくれない。
靄のかかった気持ちに、情けなさまでプラスしながら、元博は自分の隣りまでやってくる足音を、ただ聞いていた。
いちは、元博と同じように、土間に座り込んだ。
「―――・・・また、1人、友達がいなくなっちゃった・・・」
「―――・・・ああ・・・」
「皆・・・皆、そう・・・。皆、年を取って、私より先に、死んでく・・・」
いちの声が震え出した。
元博は、黙って彼女の声を聞いていた。相槌をどう打てばいいのかすら、思いつかなかった。
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