60代の少女
立て続けにため息をつく羽目になった元博は、独り言のつもりでごちた。
「・・・全く・・・。本当に勝手な人だ・・・」
「ふふ・・・そうね。全然変わってない」
その「独り言」に、返事が返ってくる。
見ると、頭1つ以上下のところで、いちが押し殺したように笑っていた。
「でも驚いた。元博さんって、四五六さんの弟子だったんだ」
「俺は君と師匠が知り合いなことに驚いたけどね」
それから「元博」でいいよ、付け加えて、2人はいちの示す方向へ歩き出した。
いちは昔を思い出すような顔をして、まだ微かに笑っている。
「田舎が一緒なの」
「田舎って・・・福島?そういや師匠って、結構頻繁に田舎に帰るよな」
「え?うん、そうね・・・。彼の家が近所だったから、帰ってきたときとかお世話になって…」
いちの様子が少し変わった。笑顔は健在だが、先ほどとは違い、少し憂いを含んでいるような表情に見えた。
ひょっとして、なにか複雑な事情でもあるのだろうか。言ったらまずいことでも言ったか。
< 15 / 113 >

この作品をシェア

pagetop