60代の少女
雰囲気を察した元博は、話題を変えるために、話の内容を必死に頭の中から探した。
「・・・歴史、好きなの?」
「え?」
「昼間、借りてた本。予約してまで借りるなんて」
「あ、うん。本当は一番手を狙ってたんだけど」
彼女の笑顔から、憂いが消えた。
その表情に安心している自分に、少々違和感を覚えながら、元博は話を続けた。
「俺の運がよかったんだ。でも女の子なのに、珍しいな」
「そう?でも歴史上の人物みたいに、生きて死ねるって、素敵だと思わない?」
「確かに魅力的ではあるけどな」
歴史小説の舞台になるのは、主に戦国時代や幕末など動乱の時代が多いが、今とは遠くかけ離れた世界だ。戦国武将や幕末の侍たちのように生きることは、現代を生きている自分がどんなに魅力的に感じたとしても無理だろう。
「なんていうか、死んで名を残すって、凄いよね。それって何よりも自分が生きてたって証明できるから。・・・私も・・・そういう風になりたいなって思う」
それが哀愁の混じった言葉に聞こえたのは、自分の勘違いだろうか。
元博は真っ直ぐに続く道の終着点を見た。なんとなく、彼女の顔を見たらいけない気がした。
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