60代の少女
ふと、いちを見ると、彼女は物珍しいものでも見たような表情だった。
「・・・意外」
「・・・なにが」
「絵が神経質だから、もっと神経質なのかと思ってたら、結構ものぐさなんだ」
「・・・ものぐさ、って言い方はやめてくれないか」
「ごめんなさい」
謝りながらも、いちの口元は緩んでいる。
ころころ変わる彼女の表情に吸い込まれそうになる自分を自覚しながら、元博はアトリエから彼女の自宅までの約20分、途切れることのない会話を続けた。絵のこと、本のこと、歴史のこと、日常のことなど、本当に様々な話を。これほど充実した会話を続けられたのは、久しぶりだったと思う。
「あ、アパート、ここだから。送ってくれてありがとう」
住宅のひしめく小さなアパートの前で、いちは足を止めた。
それに倣って元博も足を止める。
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