60代の少女
いちが見ていたのは、紅葉と流水に仏を模した、宗教画だった。
文様と風景を一体化させた油絵が四五六の得意とするところで、この手の作品は多い。
確か20年くらい前、初めて個展をやったときのメイン作品のひとつとして出したと聞いている。
奥深くに眠っていたものを、弟子の誰かが勉強のために引っ張り出しておいたのだろう。
元博も席を立ち、いちと並んで、その作品を見た。
「気に入った?その絵」
「え?あ、ううん。懐かしいと思って」
「・・・懐かしい?」
元博は思わず、語尾を上げた。
20年も前の作品を、この年代の人間が「懐かしい」と言うか?
「・・・あ、初めて行った四五六さんの個展でね、飾ってあったの。―――5年くらい前かな?」
5年前。
そのときの個展なら元博も行った。まだ弟子になる前だったが、確かにこの絵は飾ってあった。
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