60代の少女
「元博はお弁当って作らないの?」
「作ったことないな・・・。そもそも弁当にいい思い出があんまりなくて」
「なにそれ?」
「高校時代。母さんの弁当が酷かった」
「お母さん、料理下手なの?」
「いいとこのお嬢さんだったからな。包丁も握ったことないくせに、なぜか俺の弁当だけは作りたがって。・・・おかげでえらい目にあったよ」
思い出すと、苦笑いするしかない。
弁護士の父に、父が担当した会社の社長令嬢だった母。いうなれば、自分もいいトコのボンボンというやつであるが、母の料理といったらひどいものだった。
いつも祖母が弁当を用意してくれるのを、願っていたものである。
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