60代の少女
■少女
小さな川の音が聞こえる場所に、元博の通う大学がある。
大して大きくもない、かといって小さいというほど小さくもない、ごくありきたりの普通なキャンパス。
その中庭の隅にある、レンガ造りの洋風な建物。校舎より古いんじゃないかと思われる、この大学の図書館。
少々不自然な音をたてる扉を開けると、そこは無数の本が並べられる別世界だ。本棚の塔が立ち並ぶ大都会、とでも表現しようか。
入り口のすぐ脇にある、司書室の窓を軽く叩く。すると若い女性が小窓を開けて顔を覗かせた。
この図書館の司書・川崎江梨子である。
もともとは画家を志していたらしいが、「本の虫」が高じて、いつの間にかこんなところにいた、というのは彼女の言。元博に師匠を紹介した、いわば仲介人のようなものだった。
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