60代の少女
いくつかの電車を乗り継いで、会場へと向かう。
丁度人のいない時間帯だったのか、有名美術館だというのに、会場は思ったより空いていた。
受付嬢のそっけない挨拶に背を押され、作品たちの回廊へと足を踏み入れる。
中は静かだった。多分、作品の雰囲気もその静けさを助けているのだろう。
繊細で、落ち着いた色合いのキャンバスが、整然と壁を飾っている。
その静かさを壊さないようにか、いちが小さな声で元博に言った。
「何回か、日本画の講師で学校にも来てくれてるんだけど、横川先生の作品って、元博の作品と雰囲気似てるよね」
「・・・そうか?」
いちの声を聞き取るために、少し身を屈めたまま、元博はもう一度作品を見た。
確かにディティール的には、自分と同じ方向に向いているかも知れない。
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