60代の少女
「・・・雪だね」
「・・・ああ」
当たり前のことを、二人で呟く。
不意に視線を落とすと、いちの指先が見えた。
コートの隙間から露出された華奢な指は、寒さで赤さを増している。
痛々しいその指先。
なぜかその指先に吸い込まれて。
いちの手に元博の手が触れるまで、さほど時間はかからなかった。
あまりに自然な動作に、自分で戸惑ったくらいだ。
いちは一瞬目を丸くして元博を見たが、やがて触れているだけだった元博の手を、強く、握り返した。
雪が降るほど寒い日に、こんなに冷え切った手を握っているのに、元博はなぜかとても熱く感じた。
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