60代の少女
冷静にそんなことを考える元博の耳を、小さな不興音が駆けていった。
アトリエである蔵の扉を、一瞬だけ押し開けようとしたような、小さな音。
小さいが、はっきりと耳に残ったその音が妙に気になって、元博は蔵の入り口へ向かった。
重い扉を開けると、眩しい西日が目を刺した。目を細めたが、そこには誰もいない。
気のせいだったのかと、戻ろうとした元博は、目の端に少女の姿を捉えた。
アトリエの扉真横の花壇に、隠れるようにしてしゃがみこむ少女は、今まさに話題になっている彼女だった。
とりあえず元博は、その隣りに立った。なるべく、彼女を見ないようにする。
「―――・・・聞いてたのか?今の話」
「―――・・・うん・・・」
まさに、掠れた声というのが正しい表現の彼女の声が返ってくる。
「・・・どういうことなんだ?」
問い詰めるつもりはなかったが、どうしても厳しい声音になってしまう。
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