60代の少女
「・・・言わなきゃ、わかんないだろ」
声のトーンを少し上げた元博に、いちは顔を向けた。
その目は、少し赤かった。
「・・・ホントは、62歳だってこと」
言っても、信じてはもらえないだろうし。
「ちょうどいいから、思い切りサバでも読んでおけ」と、冗談半分に付け加える。
それにようやくいちの口元が少し緩んだ。
彼女の笑顔に心底安心している自分に苦笑いしながら、いちをアトリエへ招き入れる。
そこでは、いつもと変わらない、横柄な師の挨拶が待っていた
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