60代の少女
「・・・愛する誰かを残して逝くって、案外キツイもんだと思うぞ」
口から漏れるような、四五六にしては珍しく小さな声だった。
まさに「経験」という言葉に裏打ちされた、人生の先達の言葉のような。
伏せていた元博の視界に、最後に貼ったタイトルパネルが落ちる。
作業中に粘着力が落ちてしまったのだろう。パネルを拾いあげ、付着したゴミを掃う。
そこには活字のはっきりした文字で「残し逝く者」というタイトル。
それを握ったまま振り返った元博の視線遠くに、四五六の背は遠ざかっていた。
「ま、人生40年ほど先輩の言葉として、有難く受け取っておけ」
片手を上げて振りながら「俺も飯に行ってくる」という四五六は、やがて大きな扉の向こうへ消えた。
ギャラリーに1人になった元博は、改めて、そのタイトルパネルを貼りなおした。
曲がらないように細心の注意を払い、納得の行く位置に設定する。
ふと天窓から暗くなった空を覗くと、白い雪が踊っていた。
今夜も、積もりそうにない。
口から漏れるような、四五六にしては珍しく小さな声だった。
まさに「経験」という言葉に裏打ちされた、人生の先達の言葉のような。
伏せていた元博の視界に、最後に貼ったタイトルパネルが落ちる。
作業中に粘着力が落ちてしまったのだろう。パネルを拾いあげ、付着したゴミを掃う。
そこには活字のはっきりした文字で「残し逝く者」というタイトル。
それを握ったまま振り返った元博の視線遠くに、四五六の背は遠ざかっていた。
「ま、人生40年ほど先輩の言葉として、有難く受け取っておけ」
片手を上げて振りながら「俺も飯に行ってくる」という四五六は、やがて大きな扉の向こうへ消えた。
ギャラリーに1人になった元博は、改めて、そのタイトルパネルを貼りなおした。
曲がらないように細心の注意を払い、納得の行く位置に設定する。
ふと天窓から暗くなった空を覗くと、白い雪が踊っていた。
今夜も、積もりそうにない。