60代の少女
四五六が、プレゼントなどという言葉を持ち出すときは、大概裏があると相場が決まっている。
「焼肉定食なら、のりませんよ」
1年程前、珍しく四五六がアトリエ近くの定食屋でお昼をご馳走してくれたことがあった。
―――が、その代わりと言わんばかりに、その後の搬入展示準備に、馬車馬のごとく働かされた苦い記憶がある。
そのときに馳走になった焼肉定食850円分では、全く割に合わない仕事である。
元博の遠まわしの不満など無視して、四五六は言った。
「何言ってやがる。年末年始会津若松の旅、しかも老舗旅館で2食付だ」
「会津若松って…師匠の実家じゃないですか」
「そうだ。俺は年末年始実家に戻るから、お前も一緒に来い」
またしても唐突な、師の言葉。
すっかり慣れてしまったが、全く状況を弁えない言動にはほとほと参る。
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