60代の少女
「…ごめん。別に問題なくやってるから。…うん。―――何度も言うけど、父さんの跡継ぐ気はないって」
結局、師の自分勝手な決定で実家に帰れないことになった元博は、久しぶりに実家の父に連絡を取った。
父は相変わらず、自分の跡を継いで欲しいようだったが、元博にそんな気はさらさらない。事務所なら、他に優秀な後継ぎがいくらでもいるだろうに。
「…ああ、判ってる。…うん、じゃあまた」
電話口と反対の耳に、チャイムの音を捕らえた元博は、電話を切った。
玄関を開けると、そこには彼女の顔があった。
「―――どうかしたのか?」
「個展、忙しくてろくな物食べてないんじゃないかと思って」
そう言っていちは、右手の買い物袋を掲げてみせる。
確かに、忙しくて買い物も出来ず、ここ何日かろくな物を食べてないのは事実である。
「お邪魔します」と小さく頭を下げたいちは、部屋の中に足を踏み入れた。
結局、師の自分勝手な決定で実家に帰れないことになった元博は、久しぶりに実家の父に連絡を取った。
父は相変わらず、自分の跡を継いで欲しいようだったが、元博にそんな気はさらさらない。事務所なら、他に優秀な後継ぎがいくらでもいるだろうに。
「…ああ、判ってる。…うん、じゃあまた」
電話口と反対の耳に、チャイムの音を捕らえた元博は、電話を切った。
玄関を開けると、そこには彼女の顔があった。
「―――どうかしたのか?」
「個展、忙しくてろくな物食べてないんじゃないかと思って」
そう言っていちは、右手の買い物袋を掲げてみせる。
確かに、忙しくて買い物も出来ず、ここ何日かろくな物を食べてないのは事実である。
「お邪魔します」と小さく頭を下げたいちは、部屋の中に足を踏み入れた。