60代の少女
「…意外と綺麗にしてるね」
「…師匠の弟子だから、もっとズボラと思ってたか?」
「あ、判る?」
元博の方を振り返ったいちは、悪戯がばれた子供のような表情で目元を緩めた。
多少散らかっているといえば、ダイニングの隅に簡素な板を敷いて作った絵描き場くらいである。
自身では、身の回りの世話にかけてはそれなりにしていると思っている。そこだけは神経質な父に、厳しく言われてきたから。代わりには母は、マイペースで奔放だった為、元博のやることに特に口出しせず、自由な生き方を認められてきた。
おかげで、生き方だけは適当になってしまったが。
まぁしかし、あれだけズボラな師の弟子であれば、そう思われても仕方のないことではあるか。
いちはキッチンに立って、食事の準備を始めた。元博も並んでそれを手伝う。
「元博は、年末年始どうするの?」
「…会津若松」
「会津若松?」
いちが目を瞬いた。
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