60代の少女
「―――・・・ところで、おばあちゃん、いくつ?」
元博はここで変わらなかった人を思い出していた。
彼女は、ここが変わる中で、唯一変わらない存在だった。
時間という壁にずっと閉じ込められてきた彼女は、この街が変わり、自分が変わらないのをどう見てきたんだろうか。
老婆は人好きのする笑顔で答えた。
「なんだ、今年で62になっちまうなぁ」
62。
そう。これが、本当の62歳なんだ。
「俺の彼女もさ、62歳」
これが事実だということが妙に切なかった。
嘲笑とも取れる表情で言った元博に、老婆もまた笑った。
「兄ちゃん、面白いこと言うなぁ」
西に、茜色の日が沈む。
< 82 / 113 >

この作品をシェア

pagetop