60代の少女
「元博、出かけるぞ」
朝食が終わって、元博は師に呼び止められた。
会津に来てこの方、師は「勝手に観光して来い」というばかりで、自分から誰か誘って出かけることはなかった。大体自宅である宿にいるか、八七の買い付けに狩り出されているか。
その師に誘われたとなると、嬉しいやら悲しいやら、である。
無視するわけにもいかないので、元博は大人しく四五六の後に付いていった。
宿の玄関を出て、裏手に回ると住宅街になる。
その住宅街の路地を通って、四五六はある空き地で足を止めた。
空き地には、何もない。いや、長い間放って置かれただけであろう雪が、元博の腰辺りまで積もっていた。
とりあえず、観光スポットでないことだけは確かである。
四五六は雪を掻き分けて、空き地の隅への進んでいき、やがて一角を掘り起こし始めた。雪の中に四五六の姿が消える。
その中から再び現れた四五六の手には、木の札が握られていた。
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