60代の少女
土まみれになって、汚れたそれを、四五六は元博に差し出した。
「…お前は察しが良いから、これ見りゃここが何だか判るだろ」
元博が受け取ったそれは、表札のようだった。
土をある程度払ったそこから現れた苗字は―――

「田崎」

絶句という言葉は、まさにこういうときに使うのだろう。
四五六が煙草に火をつけた。
「―――…火事になるんで、止めてもらえます?」
「ばぁか。この雪で火事になるわけねぇだろ」
四五六を一瞥して、その上突っ込める余裕があることに、自分でも驚く。
「ひょっとして、これを俺に見せるために、会津に誘ったんですか」
「…まぁな」
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