60代の少女
四五六は元博の諫言を無視して、煙草を口に運んだ。師はなぜか、変なところで狡猾である。
全く、嫌になる。
「そんなに俺といちのこと、気に入りませんか」
「別に気に入らないとは言ってねぇだろ」
「だったら、何でこんなことするんです」
わざわざ彼女の実家跡まで見せ付けて。
自分と彼女の間には、この表札以上の時間の壁があるということを、殊更に悟らせて。
「いい加減、はっきり言って貰えますか」
気に入らないなら、気に入らないで構わない。
師がなんと言おうと、自分の気持ちは変わらないし、それに嘘をつくようなこともしたくはない。
怒気を含んだ元博の声に、四五六は深いため息で返した。
「―――前に言っただろうが。お前も彼女も、お互いを好きになったら不幸になるって」
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