60代の少女
「そうですね。前にも聞きました」
「お前なぁ…」
この期に及んで、未だに回りくどい師の言葉に、元博はそっけなく答えた。
師はいつもこんな調子であるが、普段こういうことに干渉してこないだけに、いちとのことについて、これ以上口を挟まれるのは御免だった。
「もう一度言います。はっきり言って貰えますか」
柳眉を逆立てて口調を強くした元博に、四五六は先ほどよりも深く、長い溜息をついた。
師は元博に背を向けて、まだ眩しい朝日を見つめる。
影になった背は、アトリエの時とは違って、やたら小さく見えた。
「…俺は、お前もいちちゃんも不幸にしたくねぇだけだ」
照れたような声が、影の向こうから聞こえてくる。
「永遠に一緒なんて、所詮夢だ。年齢って時間が、絶対邪魔する。死って…別れがある」
四五六の手から煙草が落ちた。
「いつかお前は変わって、彼女を残して死ぬ。彼女は変わらずに、また残される。この事実は誰にも超えられない」
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