60代の少女
それからは、何だか気持ちが吹っ切れたようだった。
自然と、いちのアパートへと足が動いた。
少しためらいがちに、彼女の部屋のインターホンを押す。
「・・・はーい」
見慣れたいちの顔が、ドアの隙間から覗く。
いちは元博の突然の訪問に驚いたようで、まじまじと元博の顔を見つめている。
それはそうだろう。
いちに誘われたならともかく、元博自身からこの部屋を訪ねるのは初めてだった。
「・・・なに?」
怒気とも不安とも取れぬ表情で、いちが言う。
元博は、ドアから一歩下がり、深々といちに頭を下げた。
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