liarain
いつの間にか雨はやみ、彼女の瞳も頬も乾いていた。

「もう少しだけ、頑張ってみる」

彼女はコクンと頷いて、顔を少しだけ上げた。

いつもそうだ。

この前も、「もう少しだけ頑張ってみる」って言っていた。

「もう少し」の期間が切れそうになると、僕の電話が鳴るって仕組みだ。

僕は彼女の肩に回した手の行き場所に困ってしまい、そのままの姿勢で傘もたためずにいた。



その時、ふっと彼女の左手に触れた。

彼女が腕をクロスして右肩の上に置いていた左手に。

僕の右手が。



そして、僕は怖ろしいものに触れてしまった。

冷えた彼女の指先より、もっと冷たい金属に、触れてしまった。

手を急いで引っ込めた言い訳を探して、僕は傘をたたんだ。
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