パセリな彼女がついた嘘
僕は右手に持ったケータイの着信履歴から、
一番上にある須藤の名前を選択して耳に当て、交差点に立つ。

ワンコールで『おつかれ』と出たその声には、
既にアルコールを含んだ勢いを感じた。

僕のいる場所に等しく賑やかな彼の背後から、
先ほどの後輩たちと似た甲高い笑い声が聞こえた。

「もう駅だから、15分もしないで着くよ」

『いや、今日はお前の遅刻に感謝するよ』

「え?」

『男がひとりドタキャンで、俺いま3対1だわ』

「余計急ぐって」

そう言った僕の声が彼に届く前に、
あちら側ではまたわっと笑い声が聞こえた。

『え?なになに』

そう聞いて、耳からケータイを離し、
じゃ、と言いながら切ボタンを押して通話を強制終了。

交差点を走って渡り、店に急いだ。
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