パセリな彼女がついた嘘
乱層雲の広がる夜空を見上げながらケータイを耳に当てると、

『出るの早いのね』と言う彼女の声がした。

「キミからの連絡を待ち詫びてケータイを気にしていたからね」

昼間よりも湿った空気を肺に含んで言った。

すると彼女は、

『そんなにつまらない男に手料理を作ったの?私』

と意地悪そうに尋ねた。

【やれやれ】

そんな小説の主人公のような感嘆詞が心に浮かんだ。

僕は含み笑いをしながら、
「オムライス、作ったの?」と尋ねた。

『うん、今晩はうちで、お月見ね、天気悪いし』

その言葉を聞いて、点滅する信号に走った。

「月を食べちゃうの?」

『大丈夫、我が家の月は量産型だから。それより──

僕はケータイを耳に挟み、
鞄から定期を取り出しながら聞いていた。

──これから洗濯物を取り込まなくちゃいけないから、
終わったら、傘を持って駅まで行くね。
きっと、もう降って来ると思うから』

分かった、と言って通話を終えた自分の足取りからして、
彼女よりも随分早くに僕は駅に辿りつくのだろうと予測した。
< 64 / 166 >

この作品をシェア

pagetop