パセリな彼女がついた嘘
地下鉄の扉が開き、降りる客を見送って乗り込み、
僕は降車駅で開く反対側の扉のすぐ傍に寄りかかった。

ここからの3駅、僕はこの場所を死守して、
最寄り駅で一目散に改札へと向かった。

疲れきった表情でため息をつくサラリーマンにうんざりすることがなかったのも、
13分がこんなにも長く感じて何度もケータイを開いたのも、
僕の通勤史上、初めてだった。

改札を抜けて階段をあがり、外に出ると雨が降り出していた。

それに気付いて落胆するもの、
鞄を頭にかかえて走るもの、
折り畳み傘を出して差して行くもの、
それらすべての人たちに優ったような自分を思い、
悦に浸りながら車や人の多い駅前のロータリーを眺めていた。

そしてふと、真向かいにある古ぼけたビルに目がいった。

そのビルは居酒屋や漫画喫茶などの入った雑居ビルで、
その3階には学生時代よく通った雀荘があることを思い出した。

エレベータは古ぼけて小さく、混みあう。

当時の僕はよく非常階段を利用していたから、
雀荘の緑に光る看板からその非常階段に沿って、
視線を下ろしていった。
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