パセリな彼女がついた嘘
ベージュの傘から細い手が覗き、
前に立つ中年の男性に何かを渡しているのが見えた。

その何かを受け取った男性は、
当時の僕と同じようにしてエレベータには乗らず、
非常階段を上がって3階まで行くと、扉の向こうに姿を消した。

ケータイが震えるのに気付いて確認すると、
瑠璃子さんからの着信があって、僕はそれに出た。

『いま、どこ?』

いつもと変わらず、もしもしを言わずに彼女はそう言った。

「駅前にいるよ」

『そう、じゃ行くね』

電話を切ってベージュの傘を捜すと、見当たらなかった。



そしてその数分後に、

「お待たせ」

と言って、



その傘の持ち主は僕に笑いかけた。

試合開始直後、雨天コールドゲームとなってしまうのは避けたい。

僕はすべてを仕舞い込んで、いつもと同じ笑顔を彼女に返した。
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