パセリな彼女がついた嘘
食後には下げられたお皿と引き換えに灰皿が用意された。

「ここで吸っていいの?」
と尋ねたとき、床に置いたケータイの
不在着信を知らせるランプに気がついた。

「いつもは換気扇の下かベランダだけどね」

彼女は食べ終わった食器をまとめてキッチンに向かう。

僕は「ありがとう」と言ってから、立ち上がり、
ケータイを持ってベランダに向かった。

二枚重ねになったカーテンを捲ると、
窓の鍵は空いていて、そのままベランダに出てタバコに火を点けた。

雪乃は、折り返しのない着信に対して、
再度連絡を寄越すような催促をしない。

その例に沿わず、不在着信は雪乃からだった。

僕は一息を長くタバコを吸い込んで、
ベランダに置かれた灰皿で早々に火を消した。

ディスプレイに雨水が一粒跳ねて、
僕はそれを指でこすってからケータイを閉じて部屋に戻ると、
洗いものをする瑠璃子さんの元へ向かった。

そして、
「すごく美味しかった、次は何を作ってくれる?」と言った。

「今度と次って、どっちが先に来るのかなぁ」

両手をシンクに、視線もそのままに、彼女が言った。

僕は駅の電光掲示板の列車発着表示を思いながら、
シンクの端に集められた卵の殻を見つめていた。
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