ギア・ドール
愛する人に見取られることなく、愛する者に何も言えず、無機質な鉄の箱の中で、たった一発の無機質な銃弾の元、何の抵抗もできずに死んでいった・・・・。
遺言などあるはずもない。
彼女が何を思って死んでいったのか、知ることすらできない。
アルクは、菫を埋めている間始終無言だった。
軽口を叩くことなく、涙を流すことなく、しかし・・・片時も菫からは視線を話さず、ただ無言で菫が眠る墓を掘っていた。
そんな彼に海人は何も話さなかったし、何よりも何も話せなかった。
菫を埋め終わり、最後に十字架の墓石を立て終わっても、アルクは何も語らなかった。
どれぐらい、そうしていただろうか・・・。
「海人・・・棚の一番上に『モンブラン』が入っていただろう?・・・あれ、持ってきてくれよ。」
決して自分の方に視線を向けずに静かに口を開いた。
『モンブラン』とは、ワインのブランド名。
年代物で、値段も海人たちの今の収入では決して買えそうにない高級酒。
昔、宝くじで当てたのだ。
そういえば、菫がいつも家に来るたびに飲みたがっていたな・・・。
「分かった・・・。」
海人は、短く返事を返すと車に乗り込み、自分の家に戻ってワインを持って戻ってくる。
その時間約10分。
もう少し時間をかけるべきだったと思ったのは、戻ってきた瞬間。
アルクの目が・・・・赤く腫れていた・・・・。