ギア・ドール
「うまいだろう?」


「ああ。」


 それだけ返すと、ワインをアルクに返す。


 アルクは、静かにそれ受け取ると墓の前でワイン瓶をひっくり返す。


 墓石に降り注ぐ紫色の液体。


 菫に飲ませたかった。


 菫と一緒に飲みたかった。


 二人で・・・・・また、一緒に・・・・・・・・・・。


 アルクの潤んだ目が、そう語っている。


「アルク・・・・俺、先に帰るわ。」


 さっきのような無粋なマネはこれ以上できない。


 しばらく、二人きりにしてあげよう・・・・。


「ああ・・・・すまない・・・・・・。」


 アルクの返事を受け、海人は車を使わず黙って立ち去っていった・・・。


 その日の夜、結局アルクが帰ってくることはなかった・・・。

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