ギア・ドール
二つのグラスがぶつかり、甲高い音がその間に響く。
無言で、それを飲み干す海人とアルク。
海人の口いっぱいにウィスキーの苦さと辛さが広がる。
海人の好きな味。
・・・・・・・・・・・・・『最後の晩餐』・・・・・・・。
・・・・人生の最後に味会う物としては、悪くない・・・・・・・・・な。
「・・・皐月の整備は?」
先に口を開いたのは海人のほう。
「完璧だよ・・・とりあえずはね。」
だが、それが勝算につながるとはいえない・・・。
アルクの顔がそう言っていた。
「そうか・・・。」
「知ってる?弁財天は放っておけば、勝手に壊れるらしいよ。」
知っていたのか・・・。
「あぁ、さっきジン爺さんに聞いたからな・・・。」
「それでも行くの?」
「まあな・・・。」
「そっか・・・。」
『どうして?』・・・という質問は返ってこない。
もちろん、聞かれても説明できるものじゃないが、アルクもなんとなく分かっているのだろう・・・。
弁財天は壊さなくてはいけない。
勝手に壊れることなんて許さない・・・。
あいつは・・・俺たちから、大切なものを奪いすぎた・・・。
「あのさ・・・海人。」
アルクは二杯目のウィスキーを手酌で自分のグラスに注ぎながらゆっくりと口を開く。
「何や?」