ギア・ドール
「オッス、ケィ君。」
私は小走りに彼に近づくと、わざと元気よく肩を叩く。
耳が隠れる程度にのびた黒髪。
大きな若干吊りあがった瞳以外にはこれといった特徴のない顔をしており、髪型のせいか、一見すると女の子に見えてしまう。
ケィ・・・本名不明。
いや、本当は昔一度だけ教えてもらったことがあるのだが、忘れてしまった。
自分の名前が相当嫌いらしく、イニシャルが『K』だから、そう呼んでくれといわれているうちに、いつの間にかなじんでしまったのだ・・・。
私や鈴蘭と同じく『落ちこぼれ三人組』の一人である。
「あぁ、キラ・・・それに鈴蘭か?相変わらず仲エエな。お二人さん。」
本当に元気なく振り向く、ケィ君。
どこの国とも分からない、独特のイントネーションな喋り方。
既に気にするものは、誰もいない。
「いやぁ~そんなに言われなくても・・・それより、どうしたの?元気ないね?まさか、ケィ君にいたって、さっきの射撃の成績が悪かったとか?」
ケィ君は、この孤児院始まって以来の秀才といわれている。
格闘とサバイバルが得意な私も、彼には勝てない。
鈴蘭も剣術でなら何とか彼と互角に張り合えるが、射撃で勝てる自身はないと言っていた。
そんなんだから、幼い頃には先輩方に絡まれたこともあるらしいのだが、それによってケィ君が、傷を負ったという話は聞いたことがない。
天才・・・。
まさにそんな言葉がぴったりの青年である。