ただ伝えたくて

その日の夜、理沙は部屋で課題をやっていた。


「ーーーっ」

すると急に、窓の方から声が聞こえてきた。

理沙は恐る恐るカーテンを開けると、向かいの家の窓から智が顔を出していた。



「あっ、やっと気づいた」

「智先輩!ごめんね、どうしたの?」

理沙の家と智の家は隣のため、いつも2人は窓を開けて話しをしたりしていた。

「別に家出まで先輩はつけなくて良いよ」

智は軽く笑いながら理沙に言った。

「そう言えばそうだね!無意識のうちに呼んじゃってた」

智の指摘に、理沙は照れ笑いをしながら言った。

「あ、それでどうしたの?」

「そうだ!貸してた辞書、ちょっと使いたいと思ってさ」

それを聞くと理沙は、慌てた様子で机に戻った。



理沙はすぐに戻ってくると、借りていた辞書を智に返した。

「ごめんね!!でも大変だね、休日も遅くまで勉強してるみたいだし」

理沙が心配そうに言うと、智は余裕そうな笑みを浮かべて言う。

「別にそんなことないけどな?」


「さすが智は余裕だね!そういえばね?私今度友達とWデートするんだ」

「えっ……?誰とだよ」

智は真剣な顔で聞いた。


「真奈とその彼氏と同じクラスの圭って男子だよ。相手誰かと思ったけどね、仲良い男子だったから楽しみなんだ」


笑顔で話しをする理沙を見ている智は、そんなとこに行かせたくないという思いでいっぱいだった。


「そっか……楽しめよな。じゃあ、おやすみ」

素直に言うことも出来ない智は、無理矢理話しを中断してカーテンを閉めた。

「おやすみ……?」

理沙がカーテンを閉めた音を聞くと、智は掴んでいたカーテンを力一杯握りしめてた。




それを知らない理沙は、日曜のことを想像しながら、眠りについた。

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