枕草子・伊勢物語
24段 あづさ弓
どうして。
そんな自問を繰り返し、もう三年が経ってしまった。それは同時に、彼の人をひたすらに待ち続けた日々。女は、何度目かわからないため息を吐いた。
月明かりが部屋に漏れ入る。隣で眠る男の、はだけた服の前を合わせてやる。
「今夜、訪ねる」
そう告げられたのは何度目か。しかし、門を開けさせたのは今宵が初めてだった。母が大層喜んでいた、という。そう伝える侍女の声も弾んでいた。
男の手はたどたどしく、息ばかりがひたすらに熱かった。
――どうして。
田舎ゆえか、それとも自分に魅力がないからか。想い人の才能が買われたからか、それとも都に別の。
憶測にも、もう疲れてしまった。だから、この男を受け入れたのに。そう、悪い男ではない。自分のことを想っていることも、よく解る。
それでも、彼の人の熱い眼差しや、深い情、共に過ごした時の愛しさには及ばない。
――また、堂々巡りだ。
女はまぶたを閉じ、夜風が行くのを聴く。山のうなり声も、川のせせらぎも運ばれて届く。