枕草子・伊勢物語
あづさ弓ま弓つき弓年を経て
わがせしがごとうるはしみせよ
――覚えているよ、そなたと私が仲睦まじく過ごしたあの年月を。私と過ごしたように、そなたは新しい男と過ごせば良い。
聞いたことのない、突き放すような言い様に、女は崩れるように膝を地面に着けた。足腰に力が入らない。涙をこらえる気力すら、失せる。
じゃり、じゃり、と足音が遠のく。女はきっと顔を上げ、木戸を睨んだ。
あづさ弓引けど引かねど昔より
心は君に寄りにしものを
――あの頃も、あなた様が去られてからも、そしてこの時も、あなた様だけを想っておりますのに。
足音は止まらなかった。彼の人は従者と何か言葉を交わし、やがて車が動く。彼の人が、行ってしまう。