枕草子・伊勢物語
女は、その場にわあっと泣き崩れた。ようやく、何事かと侍女や下男が寝惚けた顔を見せてきた。こんなところでどうなさったのです、と腕が差し延べられる。だが女はそれを振り払い、立ち上がって戸の閂を抜いた。
戸惑う者たちを後目に、門の外に出る。月明かりに、車の轍が浮かぶ。女は何かに取り付かれたように、その新しい轍を辿って歩き出した。何時しかその歩みは早まり、足に血が滲むのも構わず、走る。
――待って、待って。
髪は乱れ、息が上がり、着物が破れた。それでも女は、轍を追い続けた。その先にいる、愛しい人に会いたかった。話がしたかった。もう一度、触れ合いたかった。情を交わしたかたった。共に月を眺め、夜明けの声を聞きたかった。
戸惑う者たちを後目に、門の外に出る。月明かりに、車の轍が浮かぶ。女は何かに取り付かれたように、その新しい轍を辿って歩き出した。何時しかその歩みは早まり、足に血が滲むのも構わず、走る。
――待って、待って。
髪は乱れ、息が上がり、着物が破れた。それでも女は、轍を追い続けた。その先にいる、愛しい人に会いたかった。話がしたかった。もう一度、触れ合いたかった。情を交わしたかたった。共に月を眺め、夜明けの声を聞きたかった。