あの日の夕日が優しかったので
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「ねぇ、どこからきたの?」
「友達になろうよ」
差し出された掌を、あの頃僕は容易く握った。
無邪気な笑顔につられて笑った。
昔から、父の都合で転校しがちだった。
転入しても1ヵ月ほどでまた新しい土地へ行くというのも、よくあることだった。
友達ができても、すぐに別れてしまうのは当時の僕にとっては
悲しいものでしかない。
転校を繰り返すたびに、別れなければいけない辛さからなのか
「友達」というものに、僕はどんどん無縁になり無関心になり
性格までもが歪んでいった。
しばらくして、父が死んだ。
事故だった。
仕事で忙しい父に遊んでもらった記憶はないし、
それどころか親の事情で友達と引き裂かれなければならなかった自分は
正直心のどこかで父を恨んでいた。
涙なんか、でてくるはずもない。
(あっけないな、人間って)
父の死を目の前に、僕は異常なほど冷淡だった。
母は抜け殻状態だった。
気づけばいつも頬に涙の跡があった気がする。
母だって、仕事ばかりの父にかまってもらえなかったのだ。
それなのに。
子供の僕にもわかった。
母は深く父を愛していたのだと。