砂時計の村 夢魔の国のアリス
「アリスっ」
暗い森の中を、二本足で必死にぴょんぴょんと駆けてくる。
あれは紛れもない……
「うーちゃん!」
「こんなところにいたの。
心配したんだからー、もー」
うーちゃんは、心のそこから心配したように擦り寄ってくる。
さっきまで、若干鬱陶しいと感じていたのに、今ではもう、可愛くて仕方がない。
「アリス、迷子。
アリス、怒って、ウサギのお迎え」
再び、頭の上からご陽気な歌声。
足元にくっついていたうーちゃんの耳が、ぴくん、と動く。
「ウサギはウサギでも、ピンクのウサギ。
ピンク、ピンク」
うーちゃんが、バッ、と顔を上げる。
もともと、ビー玉みたいな澄んだ赤い目に、さらに赤みが射す。
暗い闇の中、わずかな月光を反射した、今まで見たことのないような鋭い目が頭上を見る。
「チェシャさん、どうしているの」
うーちゃんの目が、ぎらり、と光る。
「どうして? どうしてだろう、どうしてだと思う?」
ふと、猫の歌がやむ。
沈黙があたりを包む。
ひやり、とした風が木の葉を揺らした。