怪盗ブログ
あたしは大貴の口から出る言葉ひとつひとつを掬いあげた。
そうしなければ、大貴の心に触れられない。
本当は、それでも足りないの。
肌にくいこむ痛みは気にならなかった。
けれど、その痛みはあたしの胸を締め付けた。
「春山美術館で仕事したすぐ後、部屋にきたの」
「今日は十星があたしに仕事を見せてくれるって言ったから、その打ち合わせで」
言いながら涙が出てきた。
違う。こんなことじゃない。
あたしが大貴に言わなければならないことは、もっと別のこと。
それは確かなのに、それが一体何なのか、あたしには見付けられなくて。
あたしを抱きしめて「わかった」と言う大貴。
その言葉が余計に涙をあふれさせた。
違うよ。そうじゃない。
大貴は知ってるはずだよ。
あたしに見付けられない、その言葉を。
それはきっと、大貴にとって必要な言葉。
あたしの胸にずっとある不安。
その向こう側に、その言葉はきっとある。