怪盗ブログ


十星……!


口を塞がれた次の瞬間には、ふわっと体が浮いて窓ガラスが割れる音が響いた。

飛び散るガラス片と、外へ溢れ出す煙。


あたしは外で、空中でそれを見ていた。


あたしを抱き抱えるひとの横顔を見る。


その視線に気付いた十星は目を細めた。

初めて会った時と同じく、顔半分を覆い隠している。



「久し振り」



十星は庭で1番高い松の木に乗り移った。


すぐに井乃月の皆がその木を取り囲む。


「放してよ!」


足場の悪い木の上で十星に抱えられながら足をジタバタさせると、十星はぐらりと揺れた。


「わっ」


驚いて左手で十星にしがみつく。


「大人しくしないと落ちちゃうよ」


十星は不敵な笑みを浮かべて木を囲む井乃月を眺めている。


「……掛け軸は」

「貰ったよ」


当前、ってか。


それにしても『千歳の花』ってのはやっぱりあたし?

このままさらわれちゃうわけ?


「……あたしをどうするつもり?」


あたしが十星に尋ねた途端、まるでそれを合図にしたように井乃月の皆が身構えた。

そのとき家から大貴と会沢藤五郎も出てくる。


「千夏!」


息を切らした大貴が叫んだ。


井乃月や大貴たちの様子が変だ。

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