怪盗ブログ
あたしがそこまで言うと、おばあちゃんは「ふふ」と小さく笑った。
「何も考えてないのかと思ったけど、意外と覚悟があってやってるんだね」
「あれ、おばあちゃんなんか失礼じゃない?」
馬鹿にされている。
でもおばあちゃんが嬉しそうに笑うからあたしも笑って、しばらく雨の音を聴きながら紅茶を飲んだ。
しかし突然、おばあちゃんは悲しそうな顔をした。
「でも、きっと嫌なこともたくさんあるよ」
声のトーンはそのままに、微笑んでいるのに、すごく悲しそうな顔。
「なくすものもたくさん」
「……なくすものって?」
嫌なことはいろいろと思い付く。
「続けていけばわかるよ」
にこにこしていることが多いおばあちゃんが、珍しく伏し目がちに語る姿に思うところは確かにあったけれど……
「その時はその時!」
あたしは大きな声で言った。
少し暗くなってしまったこの場を明るくしたくて。
だって、やっと全快して嬉しいのに、こんな辛気臭い雰囲気に呑まれたくはない。
「千夏、泣き虫なのに大丈夫かねぇ」
おばあちゃんはあたしの声の大きさに驚いたのか、見開くと笑って言った。
「涙腺緩いだけで弱虫ってわけじゃないもん!」
あたしは少し冷めた紅茶を飲み干し立ち上がった。
「ごちそうさま。そろそろ帰るね」
長時間運転して疲れているだろう大貴を、早く寮で休ませてあげたい。
「……あ」
そうだ。
帰る前に一つ聞いておこう。
「あの手入れ手伝いにくる男の子って、まだきてるの?」
「そういえばここ一ヶ月くらいかな、見てないねぇ」
一体何が目的で通ってたんだか……
「そっか。じゃあまたね」
「いつでもおいで」と言うおばあちゃんに手を振った。