先生愛!~もう1つの片思い~
俺は、果たしてその言葉を、他のどんな単語とも違いなく、普通に発音出来ただろうか。声は震えてやいなかっただろうか。上ずってはいなかっただろうか。もう、それらのことは一切記憶には残っていない。ただ、何の変哲もなく、発していたことを祈るばかりである。
「先生、先生……??」
ふと、気がつくと、浅田主任が不思議そうな顔をしながら、俺を見つめていた。
「あぁ……すみません。ちょっと、気がとんでしまってました。」
そういって、俺は情けなげに笑った。
「では、手はずをそちらの方向で整えてよろしいですか?」
彼女は答えを急かすように言った。
「はい、それで結構です。よろしくお願いします。」
浅田主任は、素早く踵を返して、外へ出ていった。
「やった!!やったぞぉおおおお!!!!」
俺は、心のそこから、喜んだ。
今まで生きてきたなかで、ここまで喜んだのは、医学部に合格した時以来かもしれない。
何度も何度もガッツポーズをつくり、今にも窓を開け放して叫びたいほどだった。
「ついに……ついに、この、夢見た日が、現実になったんだ……!!!」
俺は、主任から渡された、彼女の履歴書に目を落としながら深くその喜びを実感した。