わたあめ―kimi to hajimete―
眠ってしまった佐藤君を男性スタッフが抱えて待ち用の長椅子に寝かせた。
(空気が変わった。)
多分、みんな気付いていたのだろう。さっきの佐藤君の言葉のなかにある真実に。今まで、
きっと黙ってくれてたと思う。
この店は一流だから。
値段とかじゃなくて、スタッフ全員が一流なんだ。気遣いや姿勢が凄い。
だからと言って、ピアスがダメとか染髪禁止とかではない。
相手をよく観察している。
だからと言って自分たちから話を聞こうとはしない。
まず相手の出方を見る。
佐藤君に気付かれてるならみんな気付いてるんだろうな。
『むっちゃ泣きそな笑顔だったし!!』
ちゃんと笑顔だと思ってた。
「さて!解散するか!!」
はっとした。
考え込んでしまってた。
「綾乃ちゃん。」
川崎さんが肩を叩いてくれた。まるで大丈夫だよって言うみたいに。
(川崎さん…
ありがとうございます。)
「私は佐藤君と綾乃さんを送りましょう。」
矢野さんが佐藤君を担ぎ上げながら言った。
「え……?だって…」
飲酒運転??
「まだまだ綾乃ちゃんは
修行が足りないなぁ(笑)」
マスターが話を続ける。
「矢野は今日、ひと口も飲んでないよ(苦笑)」
「えっ!?」
あの矢野さんが?!
「いくらお酒が強い貴女でも、帰りに電車は乗せたくありません。」
本当に修行が足りない…。
気付かなかった…
私は自分の荷物と佐藤君の荷物を持って矢野さんの車に乗った。
「さきに、彼を降ろしていいですか??」
「あ、勿論です。」
そして車は佐藤君の自宅へと走り出した……。