紅い記憶
「桜、なんで東京タワーなの?」

稔は電車のつり革につかまりながら桜に尋ねる。


「私が決めたの。」


少し考えていた稔だが、やはり理由が思いつかない。


「うん、それでどうして東京タワーなの?」


稔は笑いをこらえているようだった。



「だってどこからでも見えるから、迷子にならないでしょ。」



「やっぱり!ぷははは」



「えぇ!?そこ、笑うとこ!?わけわかんない。」




桜にとっては大真面目に考えて決めた待ち合わせ場所だったようだ。
それにしても東京タワーって。稔はおかしくて仕方がなかった。
東京といえばで選ぶなら東京駅じゃないか?
待ち合わせの定番といえば、渋谷のハチ公前じゃないか?
やっぱり高いとこが好きなんだなぁ
高い所といえばにしたって、今時スカイツリーじゃないか?
こいつ、スカイツリーが完成したとか知ってるのか?あんまり周りのことに興味ないからなぁ。
昔から東京タワー好きだったしな、そこで時間が止まってるんじゃねぇか?

・・・ぷははっ


稔は口にしないがあれこれ考えてやっぱり大笑いしてしまっていた。


「んもうっ!稔についてきてもらうんじゃなかった!圭とかに頼めばよかった!」



「そう拗ねるなって。百合さんとの話が終わったら、展望台行きたいんだろ?」


「うん!」


二人には、これから生き別れになった母親に会うなんていう重い雰囲気はなかった。



ここ数週間の間、火事やらその後の聞き込みやらで暗い話が続いたから稔がそうさせたくなかったのだろう。


そしてその約束の時間。約束の場所。


桜と稔が東京タワーの下に着くと、そこには一人の女性がうつむいて立っていた。
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